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コラムColumn

つぶやき 角 昌晃

 2007年〜2010年のつぶやきです。

講演会にて

ある講演会で札幌北クリニックの大平先生のお話をお聞きする機会がありました。ご高名な先生ですのでご存知の方も多いでしょう。

終末期の透析医療という悩ましい、しかし全ての患者さんが避けては通れない確実に訪れる最期をどう迎え入れるかという重厚なテーマでした。
その答えは一つではないでしょうし、簡単に出せるものでもないのでしょう。
講演のお話の中で、

『生きるに値する命と生きるに値しない生命』

『人の命を救うのに如何ほどのお金が適正であろうか』

『高齢者は死ぬ義務を持っている。生き続けて政府の公金を奪うことを辞めてほしい。』

『透析中止について』

といった、医療職と無縁の方からすればちょっとドキっとするようなキーワードの数々が飛び出してきました。これらは大平先生の言葉ではなく世界中の識者の言葉の引用であることをお断りしておきます。
明治の昔に返れとはいいませんが、現代人はすっかり感覚が麻痺してしまって、医療にはお金がかかること、今の医療が相互扶助で成り立っていること、そしてそれに対する感謝の念を持つことを忘れたかのようです。
私自身は常日頃から考えていることであり、このコラムにも時折その端々が見え隠れしていると思いますが、これらのキーワードは

自己管理している患者とそうでない患者の生命は同等であるのか?
あるいは癌などの他の病気で余命短い患者の扱いはどうするのか?
生きるあるいは死ぬことについての患者の自己決定権、尊厳は?
膨らむ医療費を前にして、透析患者だけに無尽蔵にお金をかけるのは適正か?
他の疾患の患者と比べて不公平ではないのか?
高齢者医療のあり方とは?
透析中止などということができるのか?

という疑問にイメージを膨らませます。
これらのキーワードは我々医療に携わる者は当然のこと世間一般の疑問としても、今後噴出してくるであろうと思われる問題の言い換えです。そして誰もそれに簡単に答えを出すことは出来ないのです。
それはそうでしょう、体重増加が多いからといって自己管理の良い人より生命の価値が劣るなどと言えますか?治らない癌が見つかったからといってすぐに透析をやめることができますか?お金がかかるからといって透析医療の自己負担金を簡単に増やせますか?高齢者だから透析は受ける資格がないなどと誰が決めるのですか?

しかし30年以上前の昔はまさにそうだったのです。
保険適用でない時期の透析治療の費用は殆ど全て自己負担だし、初期には年齢制限もあったし、糖尿病など合併症があればそれだけで透析を受ける資格がなかったのです。今では考えられないことです。
本当に良い時代になったものです。


面と向かって言うにははばかられるこれらのことを、敢えて前面に押し出して問いかけること。深く考えを重ねた上での勇気のなせる業であるなと、この講演に共感しました。
これらの問題に答えの糸口を出せる者、それは患者自身でしょう。
自分の生き方に尊厳を持ち、自己管理を伴う治療であることを理解し、不便ではあるが不幸ではない治療であると理解し受け入れられる人が自己決定権を行使できるでしょう。もちろん死ではなく、透析と共に歩む人生を選んでいただきたいですが。

私個人としては透析中止が今後難しいテーマとなると考えています。
他のキーワードは我々医療者側がしっかり透析治療して、患者側も権利を使うなら義務も果たすべくしっかり自己管理して余計な合併症を増やさなければ大きなお世話、余計な心配です。
ただ現実として一部に無茶苦茶な自己管理の患者がいるために透析への風当たりが強くなっているのは事実です。

講演は最期にこの言葉で締めくくられました。

『私共は、時に治療を差し控えることはあるが、決してケアを差し控えることはない』

よく生きるかどうかは己自身が決めることです。
しっかり治療してしっかり生きぬき、そして治療はいつしかケアに移り行き、穏やかに透析の最期を迎えいれたいものです。
透析患者の最期が透析をしていない人達と違ってはいけないと思うのです。


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